福岡高等裁判所那覇支部 平成9年(行コ)2号 判決 1998年6月11日
沖縄県沖縄市字知花二六〇五番地
控訴人
島袋文一
右訴訟代理人弁護士
宮國英男
同
当山尚幸
沖縄県沖縄市字美里一二三五番地
被控訴人
沖縄税務署長 石垣次郎
右訴訟代理人弁護士
渡嘉敷唯正
右指定代理人
柴田泰宏
同
世嘉良清
同
呉屋育子
同
玉栄朋樹
同
郷間弘司
同
荒川政明
同
富村久志
同
古謝泰宏
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が、控訴人の昭和六一年分の所得税について、昭和六三年六月三〇日付けでした更正処分のうち、所得金額金二二五五万八〇〇〇円、納付すべき税額金四五一万一六〇〇円を超える部分及び加算税の賦課決定処分を取り消す。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二当事者の主張
当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の摘示(二枚目表一〇行目から二三枚目裏二行目まで)するとおりであるから、これをここに引用する。
一 四枚目裏八行目から九行目にかけての「隠蔽」を「隠ぺい」と改める。
二 六枚目裏末行の「コザ支店の」次に「宇江城名義の」を加える。
三 一〇枚目表二行目の「ウイモーキー」の次に「ないしウイアギー」を、三行目の「取引形態」の次に「、以下「ウイモーキー」という。」をそれぞれ加え、同裏末行の「二四〇〇万円」を「二〇〇〇万円」と改める。
四 一二枚目表三行目の「一四日」を「一三日」と、同裏一〇行目の「(4)」を「(3)」とそれぞれ改める。
五 一四枚目表二行目から三行目にかけての「一六八七万七八五円」を「一六八七万〇七八五円」と改める。
六 一五枚目裏一〇行目の「一九八条三号、」の次に「同法」を加える。
七 一九枚目裏九行目の「東江との間で」から「合意されたものである。」までを「東江、宇江城らの交渉により合意されたものである。そして、沖縄マツダへの売却代金の決定も、宇江城が行っており、控訴人はこれらに全く関与していない。」と改め、二〇枚目表初行の「仲松」の次に「、宇江城」を加える。
八 二三枚目表九行目の「4」を「5」と改め、末行末尾の次に「仮に、控訴人と沖縄マツダとの取引であると認定されたとしても、宇江城が四一四〇万円を受領しているから、これを取引の必要経費として、控訴人の所得額から控除すべきである。」を加え、同裏初行の「5」を「6」と改める。
第三証拠
証拠関係は、原、当審の証拠関係目録記載のとおりである。
理由
一 請求原因1ないし4の各事実(控訴人の確定申告、本件処分、異議申立て及び審査請求等の各経緯と内容)は、いずれも当事者間に争いがない。
二 そこで、本件更正処分に控訴人主張の違法があるか否かについて判断する。
1 控訴人は、本件物件は、控訴人が宇江城に代金一億六五〇〇万円で売却した後、宇江城が沖縄マツダに代金二億〇六四〇万円で転売したものであり、沖縄でいうウイモーキーという取引形態であるにもかかわらず、被控訴人は、控訴人が直接沖縄マツダに代金二億〇六四〇万円で売却したと誤った認定をして、これを前提に本件更正処分を行ったものであるから、本件更正処分は違法であると主張する。
そして、控訴人は、「昭和六一年一〇月一四日、宇江城との間で、<1>控訴人は、宇江城に対し、本件物件を代金一億六五〇〇万円で売却する(ただし、契約書上は代金を一億四五〇〇万円とし、二〇〇〇万円は税金対策とする。)、<2>宇江城は、本件物件を同人が見つけてきた買い手に売却する、<3>控訴人は、宇江城に手数料を支払わない代わりに、同人が売却した代金額と控訴人に支払うべき代金額との差額である転売利益を宇江城が取得することを認めるとの内容のウイモーキーの合意をした(以下「本件合意」ともいう。)。控訴人は、少なくとも本件合意の前には沖縄マツダの関係者と会ったことはなく、宇江城の見つけた買い手が沖縄マツダであること及び宇江城の沖縄マツダへの売却代金額は同月二一日まで知らなかった。」と供述し(第一、二回)、甲一一にも同旨の記載がある。
また、本件物件の売買については、控訴人を売主、宇江城を買主とし、代金を一億四五〇〇万円とする昭和六一年一〇月一四日付け売買契約書(乙四)と、宇江城を売主、沖縄マツダを買主とし、代金を二億〇六四〇万円とする同月二一日付け売買契約書(乙五)が、それぞれ存する。さらに、沖縄マツダ宛の宇江城名義の領収証として、同月二一日付けの金額五〇〇〇万円(甲六)、同年一一月一〇日付けの金額一億円(甲七)、昭和六二年四月二四日付けの金額二〇〇〇万円(甲八)、同年五月二一日付けの金額五六四〇万円(甲九)の各領収証がある。
2 右各証拠によれば、外形上、本件物件は、控訴人から宇江城、宇江城から沖縄マツダへと売買された形式がとられている。しかし、以下に述べるとおり、これらは、控訴人が売買代金の一部に対する課税処分を免れるために、宇江城との取引を仮装したものであり、事実は控訴人が直接沖縄マツダに代金二億〇六四〇万円で本件物件を売却したものと認められる。
(一) 証拠(甲一一、乙一〇ないし一二、二二の1ないし3、二三、証人宮城靖、同新城進、同東江徳蔵、同仲松俊男、控訴人〔第一回〕)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 控訴人は、本件物件でボートの修理、販売業を行っていたが、事業の不振や模合による負債が膨らんだことから、本件物件の売却先を探していた。
(2) 一方、自動車販売会社の沖縄マツダは、予てより沖縄本島の中部に店舗用地を探しており、不動産業者の東江に仲介を依頼していたところ、同人から同業者の仲松にその情報が伝わっていた。
(3) 不動産ブローカーの新城は、仲松から沖縄マツダが店舗用地を探していることを聞いていたが、宇江城から本件物件が売りに出されていることを聞いて、昭和六一年八月ないし九月ころ、宇江城と仲松を引き合わせ、その後、仲松が東江に本件物件を紹介した。
宇江城は、当初法外な金額を要求していたが、当時、沖縄マツダの店舗用地として候補地が二、三箇所あり、仲松は、東江から沖縄マツダの購入希望価格を聞いていたので、右価格で合意できるよう東江と連絡をとりながら、宇江城との間で交渉を行い、最終的に坪約四〇万円に決まった。
(4) 当時、沖縄マツダの総務部長で、本件物件の売買に関与していた宮城は、同年一〇月九日ころ、本件物件以外の候補地の話が駄目になった直後に、仲介人である東江らから、本件物件が売りに出されていることを聞いた。そこで、宮城は、本件物件の登記簿謄本を取り寄せたうえで、同月一三日ころ、現地を見に行って本件物件の所有名義人であった控訴人と会い、売却の意思を確認し、買うことに決めた。宮城は、そのころ、売買代金が坪四〇万円であることを聞いており、東江、仲松、宇江城らの間で交渉がされていた売買代金額について、宮城に話があった時点では、坪四〇万円ということでほぼまとまりつつあったものと認められる。
右認定の事実によれば、控訴人は、宇江城と本件合意をしたという昭和六一年一〇月一四日よりも前に本件物件の買い手が沖縄マツダであることを知っていたことになる。控訴人は、前記のとおり宇江城と沖縄マツダが売買契約を締結した同月二一日まで、買い手が沖縄マツダであることを知らなかったと供述するが、同月一四日よりも前に控訴人と会って売却の意思を確認した旨の宮城の供述は、昭和六二年一〇月二六日に沖縄税務署係官の事情聴取に応じて述べたものであり(乙一〇)、右聴取の時期は、本件物件の売買時から約一年後で比較的記憶が保持されている時期であると考えられるうえ、宮城がつけていた手帳のメモを見ながらの供述であることからすると、その信用性は高いというべきであり、これに反する控訴人の右供述は採用できない。
そして、控訴人は、当時、事業の不振や模合により多額の負債があったうえ(前認定)、本件物件を売却することにより必要となる移転先の土地の購入費用や建物の建築費用等に多額の資金を必要としていたことが認められ(乙二二の1ないし3、二三、四一の1、2、弁論の全趣旨)、控訴人が売買代金額を二〇〇〇万円圧縮した限度で脱税工作をしていたことを認めていることをも併せ考慮すると、少しでも多くの金を必要としていたことが窺われるから、沖縄マツダが買い受けることを知っていた控訴人が当時ほぼまとまりつつあった坪四〇万円という売買代金額を知らなかったというのはいかにも不自然であり、これを耳にしていた可能性が高いというべきである。この点につき、控訴人自身、「宇江城が本件物件の売買の件で控訴人に会いに来る前に、仲松や東江が沖縄マツダと折衝していたのは知っており、その時点で、坪四〇万円はするかもしれないが、いくらというのは深くは考えていなかった。」と供述し(平成八年九月二四日実施の控訴人本人尋問調書一三項、一四項)、さらに「仲松や東江と金額とか細かい話をしたことがある。ある程度金額の話をしたように覚えているが、はっきり覚えていない。」などと供述する(同年一一月一二日実施の控訴人本人尋問調書二九、三〇頁)一方で、その後にこれを否定する供述をしているが、微妙な表現ながらも売買代金の話をしたことを認めるかのような供述をしている。
控訴人の主張によると、宇江城が取得する利益は、右二億〇六四〇万円と一億六五〇〇万円との差額である四一四〇万円であるというのであるが、これは、控訴人の取得する売買代金一億六五〇〇万円の約二五パーセントに相当する金額であって、いくら当時いわゆるバブル経済の時期であったとしても、法定の媒介手数料が売買代金額の一〇〇分の三とされていることに比照すると、異常に高額であり、しかも、控訴人の主張によると、控訴人が宇江城と売買契約を締結してからわずか一週間後に宇江城が沖縄マツダと契約し、右のような多額の利益を得たことになるが、控訴人と宇江城は、中学校の先輩、後輩の関係にあるだけで(控訴人〔第一回〕)、控訴人が宇江城に破格の経済的利益を取得させるような関係にあったとは認められないこと、また、控訴人は、当時、約一億二五〇〇万円位負債があったので、売買代金として一億七五〇〇万円から一億八〇〇〇万円を希望していたが、最終的に一億六五〇〇万円に決めたと供述するが(第一回)、判明している限りにおいて、控訴人は、移転先の土地の購入代金として四七〇〇万円を(乙二二の1ないし3、二三)、また、新店舗の建築工事費用として約二八〇〇万円を(乙四一の1、2)それぞれ支払っており、控訴人の供述する負債額と合計すると約二億円となり、一億六五〇〇万円では足らないこと、さらに、右のとおり控訴人が沖縄マツダが坪四〇万円で本件物件を買い受けることを知っていた可能性の高いことをも考え併せると、控訴人が供述するような形態のウイモーキーの合意がなされたとはおよそ考えられないというべきである。
そして、これを裏付ける事実として、宇江城が、新城に対し、地主から手数料として売買代金の三パーセントをもらえるので、同人らと仲松の三名でこれを分けるという話をしていたことが認められる(乙一二、証人新城進)。
なお、社団法人沖縄県宅地建物取引業協会に対する調査嘱託の結果及び弁論の全趣旨によれば、不動産のウイモーキーとは、通常、不動産の売却の仲介を依頼された不動産業者が買い手を探し出すと、依頼者の承諾を得て依頼者から買い受けたうえで、右買い手に売却し、その差額分を取得するという取引形態であり、その主たる目的は、無免許の業者が転売利益というような形で仲介手数料を取得することにあるものと解される。したがって、右のような形態のウイモーキーは、不動産の所有者と買主との間に仲介人が形式的に契約当事者として介在したとしても、それは、宅地建物取引業法四六条一項、二項の規定を潜脱するためのものであり、実質はあくまでも仲介報酬契約としての性質を有するものというべきであるが、本件は、控訴人が主張するような形態のウイモーキーではなく、課税処分を免れる目的とともに、併せて副次的に宇江城に仲介手数料を取得させる目的でウイモーキーの形式によった可能性も十分考えられる。
(二) 宇江城と沖縄マツダとの間の売買契約書(乙五)は、昭和六一年一〇月二一日に作成されたものであるが、控訴人と宇江城との間の売買契約書(乙四)は、控訴人の供述によれば、同月二一日に、作成日付を実際に合意がされた日である同月一四日に遡らせて作成したというのである。しかし、控訴人の主張によれば、控訴人は、宇江城に売却した後のことは関知しないというのであり、同人と売買契約を締結した時点で売買契約書を作成することに格別障害はないと思われるにもかかわらず、その時点で作成しなかったことについて合理的な説明がない。
さらに、控訴人と宇江城との間の甲契約書と宇江城と沖縄マツダとの間の乙契約書の体裁、内容をみると、甲契約書の特約条項の記載は複写されたものであり、また、甲契約書には収入印紙が貼付されておらず、第三条記載の手付金授受の日も実際と異なること(乙四、五)、控訴人は、甲契約書を作成したのは、同月二一日の乙契約書を作成した後であり、その場には控訴人と宇江城のほか、仲松、新城、比嘉らがおり、仲松が金額等を記載したと供述するが(平成七年二月一四日実施の控訴人本人尋問調書五二項、五四項、五五項)、仲松、新城、比嘉は、そろって甲契約書について知らない旨の供述をしていること、ウイモーキーの場合、通常、売主からウイモーキーをする者、ウイモーキーをする者から買主への二通を作成することはないこと(証人比嘉徳清、前記調査嘱託の結果)等に加え、前記(一)で述べたこと等を併せ考慮すると、宇江城と沖縄マツダとの間で売買代金が二億〇六四〇万円である乙契約書が作成されたことを受けて、控訴人と宇江城が通謀して主として課税処分を免れるために売買代金を一億四五〇〇万円とする甲契約書を作成した可能性が高いというべきである。なお、控訴人も二〇〇〇万円については、売買代金額を圧縮したことを認めている。
(三) 証拠(甲六ないし九、一一、一二、乙一〇、一三、一四の1ないし6、一五の1ないし10、一六、一七の1ないし6、一八ないし二一、二二の1ないし3、二三、二五の1、2、四〇、四二、四三の1ないし4、四四及び四五の各1ないし3、四六、四七及び四八の各1ないし4、四九の1ないし5、証人宮城靖、控訴人〔第一、二回〕)及び弁論の全趣旨によれば、売買代金の支払状況及び右代金の流れとして、以下の事実が認められる。
(1) 沖縄マツダは、昭和六一年一〇月二一日、控訴人同席のもとで、宇江城に対し、手付金五〇〇〇万円を小切手で支払い、これについて宇江城名義の五〇〇〇万円の領収証(甲六)がある。
宇江城は、同月二二日、右小切手を琉球銀行泊支店で換金し、これを別段預金にして琉球銀行(泊支店)振出の自己宛小切手の交付を受けた。同人は、同日、琉球銀行コザ支店で右小切手を換金し、同支店の同人名義の普通預金口座に五〇〇〇万円を入金した後、すぐにこれを引き出した。
右五〇〇〇万円のうち、二二〇〇万円は、沖縄銀行十字路支店の控訴人名義の普通預金口座に、三〇〇万円は、同支店の控訴人名義の定期預金口座に、一四二〇万円は、控訴人の弟である伊波義信名義の同支店の普通預金口座に、それぞれ入金された。控訴人は、残金のうち八〇万円を取得して比嘉らに渡し、一〇〇〇万円は宇江城が取得したと供述し、証人比嘉も控訴人が宇江城に一〇〇〇万円を渡したのを見たと供述するが、これについては客観的な徴憑書類はない。
(2) 沖縄マツダは、同年一一月一〇日、控訴人同席のもとで、宇江城に対し、中間金として一億円を沖縄銀行(高橋支店)振出の自己宛小切手で支払い、これについて宇江城名義の一億円の領収証(甲七)がある。
宇江城は、同日開設した沖縄銀行十字路支店の普通預金口座に一億円を入金した後、うち八〇〇〇万円を沖縄銀行十字路支店の控訴人名義の普通預金口座に振込入金し、六〇万円の払戻を受けた。
翌一一日、宇江城は、一九四一万円(同人が口座開設のために入金した一万円を含む。)の払戻を受け、うち九一〇万円を同人名義の別段預金にして沖縄銀行(十字路支店)振出の額面四三〇万円と四八〇万円の自己宛小切手二通の交付を受けてこれを換金し、うち四三〇万円を宇江城の子供である宇江城孝名義の沖縄銀行諸見支店の普通預金口座に入金した。
宇江城が払戻を受けた現金のうち、六〇万円については、同日本件物件について設定されていた根抵当権設定登記を抹消したうえで、沖縄マツダに所有権移転登記がされており、その登記手続費用にほぼ見合うこと(乙七ないし九、弁論の全趣旨)等に照らすと、右費用に使用されたことが推認されるが、その余の現金の行方については、不明である。
(3) 沖縄マツダは、昭和六二年四月二四日、本件物件において、直接控訴人に現金で二〇〇〇万円を支払い、これについて宇江城名義の二〇〇〇万円の領収証(甲八)がある。なお、右二〇〇〇万円の支払については、乙契約書に記載されていないが、控訴人から新たに店舗を求めるために必要であるという要求があったことから、支払ったものである。また、沖縄マツダは、支払についてはすべて小切手ですることにしており、この時も二〇〇〇万円の小切手を振り出しているが、控訴人の要求により現金化して支払ったものである。
右二〇〇〇万円のうち、一〇〇〇万円は、同月二七日、沖縄銀行十字路支店の比嘉正昭名義の定期預金口座に入金され、その後満期、継続等を繰り返して預け入れ額が一二〇〇万円となった後、これを担保にして平成二年九月までに沖縄銀行から比嘉名義で合計一二〇〇万円を借り入れ、これがすべて控訴人名義の普通預金口座に入金された。その後、平成三年五月二日に右預金は右借入金の返済に充てられた。
残り一〇〇〇万円については、その流れを裏付ける客観的証拠はないが、控訴人は、右二〇〇〇万円について自分が取得したものであるが、脱税の意図で当初申告していなかったことを認めている。
(4) 沖縄マツダは、昭和六二年五月二一日、控訴人の新店舗において、控訴人に琉球銀行(泊支店)振出の額面二〇〇〇万円の自己宛小切手及び現金一六四〇万円を交付し、これについて宇江城名義の五六四〇万円の領収証(甲九)がある。なお、この時も、沖縄マツダは、控訴人の希望により一旦一六四〇万円の小切手を振り出し、これを現金化して控訴人に交付している。控訴人は、翌二二日、右自己宛小切手を現金化した後、沖縄銀行十字路支店の控訴人名義の普通預金口座と信託預金口座に一二〇〇万円ずつ預金した。
控訴人は、一〇〇万円を手元に残し、残り一一四〇万円を同月二一日に宇江城に交付したと供述するが、これを裏付ける客観的証拠はない(控訴人は、宇江城作成の一一四〇万円の領収証を提出すると言いながら結局提出できない。)。
以上認定の事実によれば、次のようなことがいえる。
(1) 控訴人は、代金支払のすべてに同席しているうえ、三回目の二〇〇〇万円及び四回目の三六四〇万円の各支払については、いずれも控訴人の店舗で行われ、控訴人が直接受領しており、これらは、沖縄マツダとの間の売買について、控訴人が積極的、実質的に関与していたことを示す事実といえる。
控訴人は、その理由について、宇江城から確実に売買代金の交付を受けるためであり、代理受領の合意もあった旨供述する(第二回、甲一一の記載も同旨。)が、宮城は、そのような合意があったことの供述はしておらず、また、控訴人の主張を前提とすると、一億六五〇〇万円のうち一億二〇〇〇万円を既に受け取っており、残り四五〇〇万円を確保すれば足りるにもかかわらず、それを超える五六四〇万円を直接受領していることになるが、宇江城がこれを認めなければならないような事情は窺われないこと等に照らすと、右供述は、採用できない。
(2) 一回目及び二回目に支払われた売買代金は、一旦宇江城名義の口座に入金された後、すぐに現金で払い戻されており、その後の行方が不明であるものも多い。また、三回目及び四回目に支払われた売買代金についても、控訴人の要求により全部又は一部が現金で支払われ、その一部の行方が不明であって、これらは、売買代金の追及を困難にするための工作であることが強く疑われる。
(四) 宇江城は、現在所在不明であり、また、同人の昭和六一年分の所得税の申告書には、本件物件を控訴人から購入し、沖縄マツダに売却した旨の記載はない(甲一一、控訴人〔第一回〕、弁論の全趣旨)。
(五) 控訴人の供述は、前述したことのほか、以下に述べるとおり重要な点で変遷したり、すこぶるあいまいなところがあって、信用性に乏しいというべきである。
すなわち、主なものを指摘すると、控訴人は、<1>控訴人と宇江城との間の売買代金を実際は一億六五〇〇万円であるのに一億四五〇〇万円としたことにつき、当初は、宇江城が節税したいと言ったからであると供述していたが、節税を希望したのは控訴人であると特段の理由もなく供述を変更していること、<2>中間金の支払について、当初、一億円を受領して担保を抹消し、五〇〇〇万円余りを後で支払ったらどうかと言ったら双方了解したと供述していたが、被控訴人訴訟代理人から、宇江城の売値に余り関心はなく、売買契約書の金額は特に確認しなかった、何も意見を言わないままに宇江城と沖縄マツダの契約が終了したとの供述との矛盾を指摘されると、「これは私が言っていないと思います。司法書士の先生が言ったことだと思います。」と供述を変更していること、<3>宇江城作成名義の二〇〇〇万円の領収証(甲八)の作成経過についての供述は、二転三転しており、極めてあいまいであること、<4>控訴人と宇江城との間の甲契約書に、中間金として八〇〇〇万円の記載があり、宇江城と沖縄マツダとの間の乙契約書に、中間金として一億円の記載があることを昭和六一年一〇月二一日の段階で知っていたと供述していながら、その後宇江城らから中間金の一億円が支払われたら、二〇〇〇万円は自分が取りたいと言われ、やむなく了承した旨の供述をしていること等があげられる。
以上のとおり、本件取引は、控訴人が主張するような形態のウイモーキーではなく、同人が所得の一部について課税処分を免れるために、外形上、宇江城を売買契約の当事者として介在させたものであると認めるのが相当である。そうすると、控訴人と沖縄マツダとの間で売買契約が締結されたものというべきであって、売買代金二億〇六四〇万円の実質上の帰属主体は、控訴人であると認められる。
これに対し、控訴人は、<1>宇江城が売買代金等について仲松らと交渉し、決定しており、控訴人は関与していないこと、<2>証人東江及び同仲松は、いずれも沖縄マツダへの売主が宇江城であると認識していた旨の証言をしていること、<3>宮城は、沖縄税務署係官に対する聴取書(乙一〇)において、契約当事者が宇江城であったと供述しているにもかかわらず、原審において控訴人から買ったような認識しかないと矛盾する証言をしているが、右<1>、<2>の各点を考慮すると、乙第一〇号証の記載の方が信用できること等を根拠に、沖縄マツダへの売主は宇江城であると主張する。
しかしながら、右<1>の点については、前認定の事実によれば、宇江城は仲介人として控訴人の意を体して行動していたものと認められるから、右<1>の事実があっても不自然ではなく、必ずしも前記認定を左右するものではない。
また、右<2>の点については、証人東江及び同仲松は、右<1>の事実や外形上宇江城が売主となっていること、また、宇江城の言動からそのように判断したものに過ぎず、宇江城が控訴人と通謀して所得隠しのために行動していたことからすると、宇江城が売主であることの根拠とはなりえない。右<3>の点についても、乙第一〇号証の記載及び証人宮城の証言を通覧すると、宮城は、本件物件の名義人である控訴人が売主であるとずっと思っていたが、売買契約の直前に、控訴人や仲介人の東江らから、控訴人が宇江城に本件物件を売ったので、同人と契約しないといけないと言われ、同人と契約書を交わしたというものであって、宮城自身、本当の売主が誰であるかということについては、はっきり分からないというのが供述の真意であると解される。したがって、沖縄マツダが宇江城と売買契約を締結したのは、控訴人や仲介人らからの指示によるものに過ぎず、宇江城が売主であるとの明確な認識によるものではないから、沖縄マツダが宇江城と売買契約を締結し、契約書を作成しているからといって、必ずしも控訴人と沖縄マツダとの間で売買契約が締結されたことを認めることの妨げとなるものではない。
したがって、控訴人の右主張は採用できない。
3 売買代金二億〇六四〇万円が控訴人に帰属するものと認定した場合の控訴人の昭和六一年分の譲渡所得の金額につき、控訴人は、被控訴人が主張する算定方法及び金額(抗弁2(二)(3)ないし(5)記載のとおり)を譲渡に要する費用の点を除いて明らかに争わないので、これを自白したものとみなす。ただし、原判決添付の別表3「譲渡資産の取得価額」中、「建物」の備考欄3に「居住用部分の譲渡価額」とあるのを「居住用部分の取得費」と、「事業用部分の譲渡価額」とあるのを「事業用部分の取得費」とそれぞれ訂正する。
控訴人は、売買代金二億〇六四〇万円が控訴人に帰属するとしても、宇江城が四一四〇万円を受領しているから、これを取引の必要経費として控除すべきであると主張する。
そこで検討するのに、前述したとおり、売買代金の行方が不明なものがあり、金銭の流れからは宇江城が最終的に控訴人から受領した金額は明らかではない。しかしながら、前認定のとおり、宇江城は、本件において実質的には仲介人の立場にあり、同人が、新城に対し、地主から手数料として売買代金の三パーセントをもらえるので、同人らと仲松の三名でこれを分けるという話をしていたことが認められること、控訴人が宇江城に対し、法定の媒介手数料以上に取得させる関係にあるとは認められないこと等からすれば、宇江城は、法定の媒介手数料額を取得したものと認めるのが相当であり、この限度で譲渡費用として認められることになる。仮に、同人がそれ以上の金額を受領しているとしても、それは、控訴人の脱税行為に加担したことによる報酬とみるべき性質のものであるから、資産を譲渡するために直接支出した費用とは認められない。
以上によれば、本件更正処分による控訴人が納付すべき税額は、右によって算定された納付すべき税額を下回っていることが認められるから、本件更正処分は適法である。
三 次に、本件重加算税賦課決定処分について判断する。
前述したとおり、控訴人は、本件物件を沖縄マツダに代金二億〇六四〇万円で売却したにもかかわらず、その一部に対する課税処分を免れるため、宇江城を中間取得者として介在させ、また、甲契約書(乙四)及び乙契約書(乙五)のような仮装の売買契約書を作成するなどの手段を用いて、宇江城との売買を仮装し、本件物件の売買による所得の一部を隠ぺいして申告したものであることが認められるから、本件重加算税賦課決定処分に違法な点はなく、適法である。
四 よって控訴人の本訴請求は理由がないから棄却すべきであり、これと同旨の原判決は正当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき行訴法七条、民訴法六一条、六七条一項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岩谷憲一 裁判官 角隆博 裁判官 吉村典晃)